■英投資ファンドの東芝買収報道で、英ポンドが下落
今回は、まず、英ポンドの話からしたいと思います。
英国の投資ファンド、CVCキャピタル・パートナーズが、日本の東芝を買収するという話が出てきました。金額は日本円にして、2兆円程度だと言われています。
この報道を受けて、英ポンド安となっています。
(出所:TradingView)
その背景を、考えてみたいと思います。
【参考記事】
●英投資ファンドが東芝に2兆円超の買収提案。ポンド調整入り。ユーロ/ポンド0.90ポンドへ(4月8日、西原宏一)
■英ポンド売り・円買いの発生を見越した売りが原因
英国の会社、あるいはファンドなどが日本の企業を買収するときは、一般的に言えば、日本円で取引が行われます。また、取引は英ポンドで行われることもあります。
日本円で行われるときは、単純なケースでは、英国の会社が自分の手持ちの英ポンドを円に換えて支払います。つまり、英ポンド売り・円買い(英ポンド/円の売り)が出るということです。
また、英ポンドでの取引の場合でも、英ポンドを受け取った日本企業は、それを円に換えますので、やはり、英ポンド売り・円買いが発生します。
そういうことが、この先、起きるのであれば、今後、英ポンド/円は下がるなと思った人が、先に英ポンド/円を売っているので下落している、というのが、今の相場の流れです。
(出所:TradingView)
■海外勢による買収が認められるかは、まだわからない
しかし、ことはそんなに単純ではありません。
まず、1点目は、そもそもこの買収案件が成立するのか、という問題です。
日本では昨年(2020年)、外為法(外国為替及び外国貿易法)の改正が施行されまして、日本の安全保障などに影響があるかもしれない案件については、事前審査がなされることになりました。
(出所:財務省)
東芝は、原子力発電事業を持っていますので、事前審査の対象になるはずです。日本政府が、そうした企業の外国人による買収を認めるか、わかりません。
■支払い方法によっては、為替に影響が出ない可能性も
2点目は、支払い方法です。先ほどは、非常に単純なケースをご紹介しましたが、これはあくまでも単純なケースで、その他にもさまざまな支払い方法があります。
たとえば、お互いの株式を交換するという方法です。この場合は、単に株を交換するだけで、為替取引は発生しませんので、英ポンド/円の相場に影響を与えることはありません。
次に、借り入れを利用した資金調達のケースです。これは、よくあるケースなのですが、今回、買収を計画しているファンドが金融機関などから円で借り入れをして、その資金で支払いをするとします。
そうなると、円を借りて、そのまま円で支払うということですから、やはり、英ポンド/円相場には影響を及ぼさないことになります。
■買収案件で英ポンド/円を売っていくには、やや無理がある
以上のように、まだまだ本件に関してはわからないことが多くありますので、この買収案件で英ポンド/円を売っていくには、やや無理があるのではないかと思います。
(出所:TradingView)
ただ、外国為替市場は思惑で動いてしまいますので、今回のニュースを材料にして仕掛けた人がいる、ということなのだと思います。
■足元は単なる調整、中期の米ドル高見通しは変わらず
さて、その他に関してですが、ここにきて米国の長期金利が、やや低下してきています。
(出所:TradingView)
それを受けて、米ドルも全体的に下落しています。
(出所:TradingView)
しかし、米国の景気見通しに、大きな変化があったわけではありませんので、これは、これまでの調整と考えておいていいのではないかと思います。
私自身は、ある程度、しっかりしたトレンドで米ドルが上昇していくパターンをイメージしていましたが、残念ながら、足元の動きはそうなっていません。
【参考記事】
●なぜ、米長期金利上昇と株価上昇が同時に起こっているのか? 米ドル高もまだ続く!(4月1日、今井雅人)
●米ドル/円の押し目買いに安心感! 米長期金利が上昇してもしなくても下値は堅い(3月4日、今井雅人)
しかし、前述のように、この1週間の動きは単なる調整だと考えていますので、中期的な米ドル高予想は、このまま維持しておきます。
(出所:TradingView)
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