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元日銀審議委員の植田和男氏を次期日銀総裁に起用。その意図とは?
2月10日(金)、新しい日銀総裁に元日銀審議委員の植田和男氏、副総裁に内田真一日銀理事、氷見野良三前金融庁長官が起用されると日本経済新聞(以下、日経新聞)が報じました。
植田氏の名前は日銀総裁候補に一度も出てこなかったので「Mr.Ueda って誰?」となり、マーケットは不安から米ドル/円は131円台後半から130円割れと、2円ほど円高に振れました。
1週間ほど前、日経新聞は雨宮現日銀副総裁が総裁に「打診」されたと報じましたが、市場参加者の多くは、雨宮氏もしくは中曽氏、ダークホース山口氏という情報を聞かされてきたので、植田和男氏に関する知識はほとんどゼロに近く、ある意味、岸田政権は情報コントロールを上手くやったなと思います。
朝日新聞がこのあたりの事情を報じています。
世界で仲間外れにならないこと 日銀総裁の資質、20人から白羽の矢
(出所:朝日新聞デジタル)
この朝日新聞の報道によると、
・日銀総裁候補の人選は昨年夏頃から木原誠二官房副長官や嶋田隆政務担当首相秘書官らごく一握りの幹部だけでスタート
・首相の日銀総裁人事に対する狙いは二つ。ひとつは、主要国の中央銀行が激しく政策を変更する中、トップ同士で意見交換する「インナーサークル」に入り、緊密に連携をとること。 もうひとつは「質の高い発信力と受信力」
・首相周辺は検討の早い時期に雨宮氏の起用は見送ったと証言
・麻生太郎副総裁は元金融庁長官森信親氏を推薦
・日銀が推してきたのは雨宮氏、中曽氏。ただ、二人は固辞
・麻生太郎氏「これからはインフレ対策をしなければいけない。今までの体制を総取っ換えしないといけない」と日銀側に進言
・最終的に「出口」を模索する局面が来た場合に備えて、雨宮氏と共に今の政策を組み立ててきた内田氏を副総裁に据えた。「設計図を分かっている人しか触りようがない」と首相
大変興味深い内容で、これまでの「雨宮氏なのか、中曽氏なのか、それとも山口氏なのか、翁百合氏は入るのか」と考えさせられた日々は何だったのかと思います。
岸田首相は上手くやったと思います。おそらく、木原官房副長官が中心だったのだろうと推測されますが(記事内の官邸幹部はおそらく木原氏)、情報コントロールが完璧でした。最終局面では岸田首相と麻生副総裁、茂木幹事長の三人で決めたのでしょうが、そこに安倍派がいないというのも暗示的です。
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黒田日銀の政策は、YCCをはじめいずれ解体される。ただし慎重にやっていかないと、市場の反発を喰らうことになる
朝日新聞のもうひとつの記事も参考になります。
「間違うと安倍派と政局になりますよ」牽制された首相 日銀総裁人事
(出所:朝日新聞デジタル)
・「日銀総裁人事で間違うと、清和会と政局になりますよ」。昨年11月下旬、岸田首相と会食した安倍派幹部はそう念を押した
・首相も、市場への影響と党内の反発という二重の意味で、「アベノミクス」への配慮に意を注いだ。「アベノミクスの否定に見えないようにすることだ」
・首相は安倍派幹部の電話を鳴らして植田氏の起用を伝えた。「金融政策は変更しません。かつてゼロ金利解除に反対した人です。お眼鏡にかなう人選でしょう」
・安倍派の閣僚経験者は「首相には金融政策を変えないよう伝えてきた。方向性は明確だ」と、首相を評価
しかし、問題は、植田和男氏がアベノミクスを継承するような人なのかどうかという点でしょう。私自身は植田和男氏のファンです。著書も読み、植田氏の主張は理解しているつもりです。
植田氏の考えを簡単に説明すると
・伝統的な金融政策(金利面)においては超金融緩和派
・非伝統的な金融政策(資産購入、量的緩和政策)においては、否定派。
いずれ黒田日銀の政策は、YCC(イールドカーブ・コントロール)をはじめ解体されることになります。植田氏を新日銀総裁に指名したということは、そういうことでしょう
著書「ゼロ金利との闘い: 日銀の金融政策を総括する」(日経BPマーケティング)には、こう書かれています。
「民主主義のもとでは独立性の高い中央銀行が取れる、あるいはとって良い財務リスクには限りがあると考えるべきだろう。 本当に損が発生すれば、結局は国民の負担となる。 しかし、中央銀行の政策担当者は直接国民の投票によって選ばれているわけではない。国民に大きな負担が発生するかもしれないような政策は、投票によって選ばれている政治家が決めるものと考えるべきだろう」
しかし、慎重にやっていかなければ、市場の反発も喰らいますし、自民党内の反発も喰らいます。特に目先、国会の議決を得て人事案が承認されるまでは、植田氏もアベノミクスを否定しないよう猫かぶりしなければならないでしょう。
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米ドル/円の最大のリスクは、新日銀総裁がアベノミクスを否定するとき
米ドル/円マーケットの最大のリスクは、新日銀総裁がアベノミクスを否定するときです。一気に円高・株安に走るでしょう。それを避けるためにも、ゆっくりと解除していかなければなりません。
(出所:TradingView)
新しい日銀総裁の考えを聞くのは、2月24日(金)に予定されている衆議院による「所信聴取」です。27日、28日(決まっていない)にも参議院の所信聴取があります。
もうひとつ気をつけなくてはいけないのは、3月10日(金)、黒田総裁による最後の日銀金融政策決定会合でしょう。黒田総裁には、植田氏がいずれ自分の政策を否定していくというのが見えているでしょう。そうであるなら、最後の会合にいきなりYCC解除とかを持ってくるかもしれません。
日銀の総裁に就任する見通しの植田氏の金融政策に注目が集まっているが、黒田総裁にとっては最後になる3月の日銀金融政策決定会合には気をつけたい (C)Bloomberg/Getty Images
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