「通貨が強いと工場が潰れる」という法則は、スイスでは通用しない!
みなさん、こんにちは。
いろんなエコノミストの解説を聞くとわかったような気もするのですが、今ひとつ納得できないのが「スイスの製造業とスイスフランの強さ」が並走していることです。
【※関連記事はこちら!】
⇒米ドル売りを中期で米ドル/円から米ドル/スイスフランに移行。解放の日以降、主要通貨の対米ドル上昇率は円がもっとも低く、最強なのはほぼゼロ金利のスイスフラン!(6月9日、西原宏一&叶内文子)
例えば、米ドル/円は75〜80円という日本円の強さに耐えられず、アベノミクスをきっかけに通貨安を進行させ、対米ドルでの日本円の価値を、75.35円の最高値から一時半分以下の160円まで劣化させました。
現在、トランプ政権は米国の製造業復活をかけて、通貨安を進めているのではとの報道も絶えません。
つまり、「通貨が強いと工場が潰れる」という考え方が浸透しているわけです。
実際、日本円や米ドルを見ていると、通貨が強い局面は製造業にとってやはり不利なのだろうと思います。
ただ、スイスフランの強さを見ていると、それは本当なのか?思わざるを得ません。
ここで、スイスフラン/円の四半期足チャートを見てみましょう。

(出所:TradingView)
2000年9月のスイスフラン/円は58.83円という今では信じられない安値。それが24年後には180.07円と3倍強の高値に暴騰。
時間はかかっているとはいえ、法定通貨同士でこれだけの国力差が出るのも珍しいケースです。
視点を変えると、2000年からの日本円はスイスフランに対して3分の1に劣化したことになります。
これだけ強烈な通貨高に見舞われたスイスは、さぞかし製造業中心に大不況に陥ってもおかしくないわけです。
ところが、スイスでは「通貨が強いと工場が潰れる」という法則は通用しません。
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スイスフランは政策金利がゼロになっても、なお強い
スイスフランは欧州債務危機に見舞われたため、対米ドルで一時0.7071スイスフランという歴史的高値に到達しています。
2011年は日本円も、対米ドルで75.30円という歴史的高値をつけているため、2011年までの日本円は、スイスフラン同様、避難通貨としての地位を維持していたわけです。
それが、本稿執筆時点の米ドル/円は144.50円、米ドル/スイスフランは0.8200スイスフランですので、過去14年間、日本円とスイスフランの強弱は大きく明暗を分けたといえます。

(出所:TradingView)
言い方を変えれば、米ドルが上がろうが下がろうが、世界経済が不況に陥ろうが回復に向かおうが、スイスフランは常時堅調に推移しているといえます。
それではこの間、スイスの経済は衰退してしまったのでしょうか?
米ハーバード大学のグロースラボは、スイスを「経済の複雑性がもっともも高い国」と評価しており、そのことがチョコレートから時計、医薬品、化学製品などさまざまな分野における輸出競争力につながっていると分析している、とロイターが報道しています。
つまり、スイスフランが通貨高に見舞われても、スイスの製造業が衰退しているわけではありません。
それがなぜなのか、次のFT(フィナンシャルタイムズ)の解説を読んで納得できました。
最強の通貨と輸出競争力を両立させているスイス
世界で最も豊かな経済大国であるスイスは、強い通貨と強い製造業の基盤という両方を持ち合わせている。スイスフランに投資した場合の収益率は、投資期間が50年、25年、10年、5年のどれをとっても世界の通貨の中でトップだ。
ドルが上がろうが下がろうが、世界経済が不況に陥ろうが回復に向かおうが、スイスフランは着実に上昇を続けてきた。
2015年にはスイス国立銀行(中央銀行)が無制限介入を停止してフランが急騰した「スイスフラン・ショック」 が起きたが、これに対し国内の製造業は為替の変動に影響を受けにくい高度な輸出品の製造へと、一層強くかじを切った。
通貨安は製造業復活の解決策にはならない。
(出所:FT)
この記事でも取り上げていますが、2015年には「スイスフラン・ショック」 が勃発。SNB(スイス国立銀行[スイスの中央銀行])が無制限介入を停止して、スイスフランは急騰しました。
この時も、スイスフランの急騰により、スイスの製造業は大きく後退するだろうと考えが一般的でしたが、国内の製造業は為替の変動に影響を受けにくい「高度な輸出品の製造」へと、一層強くかじを切って乗り切っているようです。
それでは、金利はどうでしょうか?
SNBはこれまでインフレの低迷を指摘しており、来週、6月19日(木)に0.25%の利下げを行うことがコンセンサスとなっています。
仮に0.25%の利下げが実施されると、SNBの誘導目標金利はゼロとなり、主要国ではもちろん最低金利となります。
ただ、4月2日(水)の「解放の日(※)」以降、米ドルは主要通貨に対して大幅に下落しており、SNBが連続利下げを実施するも、米ドル安・スイスフラン高は収まっていません。
(※編集部注:「解放の日」とは、トランプ大統領が各国・地域に課す相互関税を公表した4月2日(水)のこと。トランプ大統領はこの日を「解放の日」と表現した)
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スイスフラン/円に注目! 6/19に利下げを控えているのに、通貨も製造業も強いスイスフランは180円の歴史的高値が視野に
一方、この米ドル安の流れの中、主要通貨の間に大きな差が出ています。

解放の日以降の主要通貨の対米ドル騰落率を見ると、米ドルに対してもっとも値を上げたのがスイスフラン。
他通貨と比較すると、米ドルに対して値を上げていないのが日本円となります。
解放の日以降、日本円も他の主要通貨同様、米ドルに対して値を上げており、4月22日(火)の米ドル/円は139.82円まで急落しています。ただその後、一時148円台まで急反発する局面もあり、他通貨と比較すると戻りが大きいことが、米ドル安を緩和させている形です。

(出所:TradingView)
この米ドル/円の下げ渋りの要因は、昨年(2024年)から頻繁に取り上げられている新NISAによる家計からの円売りと、一向に縮小しないデジタル赤字だと考えています。
米ドル/円が下げ渋る中、他通貨では米ドル安が進行するため、総じてクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)が堅調。
ここで注目したいのが、スイスフラン/円です。
スイスフラン/円は昨年、180円台という高値に到達して以降、SNBの連続利下げもあり、165円台まで下落しました。
しかし、前述のように6月19日(木)もSNBの利下げを控えているにもかかわらず、176円台まで戻しており、再び180円という最高値更新が視野に入ってきました。

(出所:TradingView)
「通貨が強いと工場が潰れる」という考えを否定し、通貨が強いのに製造業も強いスイスフラン!
歴史的高値更新に向けて、再び値を上げてきたスイスフラン/円に注目です。
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