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西原宏一の「ヘッジファンドの思惑」

ユーロ/米ドルは1.22ドルに向けてじり高か。「トランプが世界経済の秩序を消し去っている」対主要通貨で米ドル安継続へ。米ドル/円は米ドル買い需要もあるが介入次第

2026年01月22日(木)15:41公開 (2026年01月22日(木)15:41更新)
西原宏一

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日本国債急落が米国債、米国株、米ドルにも波及してトリプル安に

 みなさん、こんにちは。

 日本では衆議院選挙の行方が大注目ですが、グローバルではトランプ政権と欧州の対立に注目が集まっています。

 まず、日本国債急落の報道から。1月21日(水)、日本の超長期金利が急騰(国債は暴落)しました。きっかけは、財源の具体策が不明な消費税減税に関する報道です。


恒久的な食料品の消費税ゼロを掲げる新党「中道改革連合」は、新たな政府系ファンドの創設などで財源を生み出す方針だ。だが、これが年5兆円必要な安定財源と呼べるか定かではない。2年間の食料品消費税ゼロを訴える高市首相も、財源について赤字国債に頼らないと語るが、具体策は不確かだ。
(出所:日経新聞)


 このような財源不明の消費税減税報道が日本国債の暴落を誘引し、米国債、そして米国株、米ドルにも波及して同時に下落しました。

 ベッセント米財務長官も「日本国債の売りが米国にも波及」とコメントしています。

 それに対し、片山さつき財務相は超長期金利が急騰したことを受け、「市場を安定させるためのことはやってきているし、これからもやることは必ず約束できる」とコメント。高市政権が掲げる「責任ある積極財政」は「プロアクティブ(先を見越した)ものであってエクスパンショナリー(拡張的)ではない。市場の皆さまには落ち着いていただきたいと思う」と呼び掛けています。

片山さつき財務相は市場を沈静化させることができるのか? できなければ、債券安、株安、円安に傾斜して日本版トラスショックを誘引してしまいます。

 この行方はまず、1月23日(金)の植野日銀総裁の会見に注目です。

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主要通貨に対する米ドル安継続へ。トランプが世界経済の秩序を消し去っている

 トランプ米大統領がグリーンランドの取得を目指すとの報道があってから、トランプ大統領の評判はすこぶる悪い模様。

 共和党支持者である僕の友人も、今回のグリーンランドの件は賛同しかねるようです。

 欧州からの評価も最悪で、僕が注目しているFT(フィナンシャルタイムズ)のマーティン・ウルフ(Martin Wolf)も「トランプが世界経済の秩序を消し去っている」とコメント。トランプ大統領の野望により、米ドルと米国債はもう安全でないというわけです。

 ただ、グリーンランド報道がユーロ/米ドルに与える影響については意見が分かれています。

 まず、欧州経済に与える悪影響からユーロ売りという一般的でシンプルな見方

 ただ、それと真逆な見方をしているのが、ドイツ銀行の外国為替リサーチ責任者ジョージ・サラベロス(George Saravelos)です。1月18日(日)に顧客向けリサーチレポートを発行し、その要点は下記のとおりです。


●欧州諸国は計約8兆ドルの米国資産(債券および株式)を保有しており、これは米国の対外債務を支える最大の資金源である
●米国が貿易(フロー)で圧力をかけるなら、欧州は資本(ストック)の再配置で対抗する可能性がある
●サラベロス氏の象徴的な言葉:「市場にとってもっとも破壊的なのは、貿易の流れではなく『資本の武器化(Weaponization of Capital)』である」


 このレポートは、トランプ大統領がグリーンランド買収問題を巡って欧州諸国への関税を示唆した直後に発表され、ロイター通信やブルームバーグ、日本経済新聞、ジャパンタイムズなどの主要経済メディアが一斉に報じました。

 このレポート発表直後から、JPモルガンやゴールドマン・サックスなど他行のストラテジストから鋭い反論が出ています。

 現在は、市場で「民間セクター vs 公的セクター」について議論されており、ポイントは以下のとおりです。


(1)「命令」はできないが「誘導」はできる
EU(欧州連合)は直接的に民間資産の売却を命じることはできないが、「反威圧手段(ACI)」などを通じて、米国資産への投資に対するリスク重みを高めるような規制変更を行うことで、実質的に「リバランス」を促すことができる

(2)為替ヘッジコストの増大
米欧の政治的対立が激化すれば、為替のボラティリティが上昇する。そうなると、欧州の投資家にとって米国資産を維持するための「ヘッジコスト」が急騰し、経済的合理性から「自主的に」米国債を手放す動きが加速するという予測

(3)「信認のプレミアム」の剥落
「米国債は無リスクである」という前提が、外交上のトラブルで揺らぐこと自体が、民間のポートフォリオ・マネージャーに「ドル売り・ユーロ買い」の動機を与えてしまう


 これらの議論から、ドイツ銀行のレポートは実務的な「一斉売却」を予言したというより、「米国がいかに欧州の資本に依存しているか」という脆弱性を突き、交渉のレバレッジを貿易から金融へシフトさせた点に大きな意味があると考えます。

 また、「グリーンランド問題の悪化=ユーロ売り」というステレオタイプ的な見方だけではない、別の視点を提示した点にも意味を見いだせそうです。

 個人的に興味深いのは、FTのケイティ・マーティン(Katie Martin)「トランプの北極圏への野望が、米国のもっとも重要な資産を台無しにしている」と意見しているところ。

 彼女の主張は、トランプが「同盟国を守る・貿易する・お金を回す」をセットで脅しに使うと、世界の「米国=安全」という信頼にキズが入るというもの。

 その結果、リスクオフでも米ドルと米国債が上がらず、代わりに金(ゴールド)や欧州債が買われる動きが出るとしています。

 その後、デンマークの年金基金が「米国債投資を引き揚げる」と報道されました。


デンマークの職域年金基金アカデミカーペンションは、今月末までに米国債投資から撤退する計画だ。トランプ米大統領の政策が、無視できないほど大きな信用リスクを生んでいるとの懸念が広がっている。アナス・シェルデCIOは「米国の政府財政は長期的に持続可能ではなく、米国は基本的に良いクレジットではない」とブルームバーグに語った。投資引き揚げの理由の一つに、トランプ氏のグリーンランド領有要求を挙げたほか、財政規律に対する懸念や、ドル安も米国資産への投資縮小を正当化すると説明した。この発言後、米国債は下げを拡大した。
(出所:Bloomberg)


 デンマークの米国債投資は巨大なものではありませんが、ドイツ銀行のレポートに書かれていたことが、実際に形を伴って現れたとも受け取れます。

 このように、ドイツ銀行のレポートは大きな話題を呼び、ベッセント米財務長官が登場する事態に。

 欧州勢が米資産を売却する可能性があると示唆したドイツ銀行のレポートについて、クリスティアン・ゼービングCEOは「同行の見解ではないとベッセント米財務長官に伝えた」とBloombergが報道。

 ベッセントさんは「欧州勢が米資産を売却するという見方は、ドイツ銀の単独のアナリストから出てきたものだ。ドイツ銀のCEOから電話があり、同行はそのアナリストのレポートを支持していないと伝えられた」としています。

 米国債の下落を沈静化するため、いろいろとベッセントさんも大変ですね。ドイツ銀行の広報担当者は現時点でコメントはないとしています。

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ユーロ/米ドルは1.22ドルに向けてじわじわ値を上げそう。米ドル/円は円安継続しそうだが、介入に要注意

 結果、短期ではヘッドラインの影響で乱高下はするのでしょうが、欧州に対する米ドル安は継続しそうで、ユーロ/米ドルは1.22ドルに向けて、じわじわと値を上げるとみています。

ユーロ/米ドル 週足
ユーロ/米ドル 週足チャート

(出所:TradingView

 米ドル/円については、本邦事業法人が米ドルを大きく買い遅れているという報道もあり、円安が継続しそうですが、片山さつき財務相が頻繁に警告しているように、実弾介入が出れば短期では大きく値を下げるので要注意です。

米ドル/円 日足
米ドル/円 日足チャート

(出所:TradingView


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今井雅人