■キプロスショックはショックにあらず?
EU(欧州連合)危機の発生に慣れているせいか、マーケットはEU発のサプライズに動揺しなくなっている模様。今回のキプロスショックはその好例であろう。
ショックと言われるほど相場が大きく動いていないから、マーケットがEU問題に慣れたか、キプロス問題は言われているほど深刻ではないかのどちらかであることを示唆している。
まず、ユーロ/米ドルの日足チャートをご覧いただきたい。
(出所:米国FXCM)
チャートを見ておわかりいただけるように、ユーロ/米ドルは200日移動平均線(200日線)さえ割り込んでおらず、とてもショックの雰囲気が伝わってこない。
そもそも、ユーロは2013年2月初頭から調整のトレンドが続いており、キプロス問題が発生する以前からずいぶん落ちてきていたので、ユーロ安の背景すらキプロス問題をもって説明はできないと思う。
次に、下の米ドル/円のチャートを見ればおわかりいただけるように、あの「2.26事件」と比べ、3月15日(金)のキプロスショックは、やはりショックと呼べるほどのボラティリティはなかった。
【参考記事】
●米ドル/円急落は為替市場の「2.26事件」!? 90円を割れれば、さらに下落する可能性も(2013年3月1日、陳満咲杜)
(出所:米国FXCM)
■キプロスはEU圏のオフショア地
そもそもキプロスという国は、多くの方がどこにあるかさえ知らないような小さな国だが、FX業界人と海外移住を志す中国人にはよく知られている。
キプロスは、税金の安さでEU圏のオフショア地でもある。当然のように、金融監査の目も緩いから、多くのFX会社がキプロスに本社を置いている。
その上、海外資金の主力が東欧、特にロシア筋となっているから、「グレー」な国と見られる場合も多い。
また、キプロスは地中海に浮かぶリゾート地であり、昔、不動産バブルがあったが、はじけてから深刻な衰退に見舞われた。
そして、同国政府が打ち出したのは、新たな移民政策による投資資金の取り込みである。
30万ユーロのマンションを買えばパスポートをくれるそうで、東欧や中国では人気が出始めているという。
30万ユーロでは、北京や上海ではボロ物件しか買えないが、キプロスなら南国風の小ぎれいな庭付き住宅を手に入れられる上、EU全域に行きやすいため、富裕層ではない方にも魅力的だ。
ちなみに、中国では移民ビジネスの対象はもはや富裕層に限らなくなっているという。
■キプロス問題は早々に収束すると予想する理由とは
余談のようだが、要するにキプロスの問題はかなり特殊である。ギリシャの10分の1ぐらいの経済規模で、かつロシア資本、移民資本に頼っているから、EUにとってキプロスの預金封鎖、あるいはEU離脱は「禁じ手」にはならない。
また、ロシア筋と言われるグレーゾーンの資金を痛めつけること自体が目的ではないとしても、キプロスを安易に救済した場合、助けられるのがグレーゾーン資本であることをEU関係者は知っている。
イタリアやスペインと違い、キプロスは切り捨てられてもよいとEU幹部らは内心で思っているかもしれない。
ゆえに、キプロスショックにマーケットはあまり動揺していないし、最後はキプロスが折れて、EUの指示どおりにやるのではないかと思う。
預金封鎖など過激な手段が出されても、それはキプロスに限定され、その悪影響はEU全域に広がらないといった楽観論さえあるから、キプロス問題の早期収束が予想される。
■米ドル全面高はいったんスピード調整の公算が高い
となると、マーケットの関心はやはり、再度日米金融政策に回帰してくる。肝心の米FRB(連邦準備制度理事会)の政策やバーナンキFRB議長のスタンスは、前回のコラムで指摘したとおり当面変調なしだから、マーケットは安心感を持っている。リスクオンムードは当面維持されるだろう。
【参考記事】
●相場が熱い!金余り相場はいつまで続く? 米株高とドル全面高の同時進行に死角あり(2013年3月15日、陳満咲杜)
一方、株高と同時進行してきた米ドル全面高は、仮にトレンドを維持できたとしても、いったんスピード調整の公算が高いだろう。
前回指摘していたように、豪ドルや英ポンドの、米ドルに対する反騰が見られていたから、キプロス問題が落ち着けば、ユーロも切り返しやすいだろう。
【参考記事】
●相場が熱い!金余り相場はいつまで続く? 米株高とドル全面高の同時進行に死角あり(2013年3月15日、陳満咲杜)
200日線のサポートがキプロスショック後も維持されること自体、ユーロの当面の底打ちを示唆するサインと読み取れる。
(出所:米国FXCM)
■キプロス問題が早期収束ならクロス円が上昇か
肝心の米ドル/円は、黒田新総裁の就任で「事実の売り」といった米ドルロング筋の利益確定も見られたが、これでトップアウトしたと判断するのは時期尚早であろう。
新体制となった4月の日銀会合で、「量、質とも拡大」と公言された量的緩和策の中身を見ないと、積極的な円買いを仕掛けにくいと思われる。
本格的な「事実の売り」があれば、4月の日銀会合以降になるのではないかとみる。
ゆえに、当面クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)も堅調な推移になるだろう。
前回コラムにて予測していたように、リードする豪ドル/円で101円の大台の打診があれば、ほかのクロス円通貨ペアが追随してくることも十分想定できる。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:豪ドル/円 4時間足)
筆者の予想どおり、キプロス問題が早期決着できれば、クロス円がもっとも上昇しやすいとも思われる。
【参考記事】
●相場が熱い!金余り相場はいつまで続く? 米株高とドル全面高の同時進行に死角あり(2013年3月15日、陳満咲杜)
最後に強調しておきたいのは、ここでいう早期決着は問題の根本解決ではなく、先送りであるということだ。今までのEU危機がそうであったように。
このあたりは、中国人が一番よく心得ているかもしれない。海外移住してしまう多くの中国人は、中国共産党が結局問題を根本的に解決できず、先送りするしかないことをよく知っているのだ。だからこそ、海外に活路を求めているのである。
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