■個人投資家が判断しやすい材料が出ると「出尽くし」が近い?
この意味では、往々にしてトレンドの途中や最終段階において、一般個人投資家が判断しやすい材料があった場合、その材料のインパクトが大きければ大きいほど、実は「出尽くし」が近いとみるべきであろう。
少し遠い事例かもしれないが、2011年3月、東日本大震災時の株市場のパフォーマンスも好例であろう。自衛隊のヘリコプターが上空から鎮火材を原子炉に撒く場面を、TV画面で日本中の人々が深刻な顔で見つめていた時、株が近々歴史的な大底を打つと考えた人は何人いただろうか。
だから、確かにイタリアをはじめ、EU危機は再燃しかねないし、米中貿易戦争をはじめ、米国がEU、日本、カナダなど同盟国まで敵に回して世界情勢が一段と混乱に陥るリスクも大きいと思うが、これをもって市場の動向を推測するには不十分だ。
現在の材料自体ではなく、現在の材料が将来へどう影響するかに関しての、市場参加者全員の判断、思惑、また、戦略の集大成が値動きなので、値動きこそ最終また随一の判断基準だといえる。
■これからリスクオン・オフを左右するのは?
結論から申し上げると、これからリスクオン・オフを左右するのは米国株の動向で、米国株の動向を決定するのは米長期金利(米10年物国債利回り)の見通しだと思う。
言い換えれば、米国株が崩れない限り、本格的なリスクオフにはならない可能性が大きいから、「余計」な材料に気を取られすぎないように注意が必要だ。
実際、米長期金利は5月29日(火)からすでに大幅に低下してきた。それはイタリアの政局不安と無関係ではない。米国債は伝統的に、また優れた流動性という意味合いでは世界一のリスク回避先なので、混乱があれば米国債が買われ、長期金利が低下してくるのも当然の成り行きだ。
(出所:Bloomberg)
前回のコラムでも指摘していたように、CFTC(米商品先物取引委員会)統計によると、投機筋の米10年物国債売り越しはかなり大規模で、一時市場最高記録を更新していたほどだ。
【参考記事】
●米朝首脳会談の中止で円高になったわけではない! 円高になった真の理由とは?(2018年5月25日、陳満咲杜)
こういったポジションの偏りから考えて、EUの混乱や貿易面の対立が続くほど、継続的に米国債は買われやすく、米長期金利が低下しやすい可能性が大きい。なぜなら、いつものように、偏りすぎたポジションは整理される運命にあるから、米国債のショート筋がこれから踏み上げられる可能性が大きいからだ。
となると、一時心配された米国株の下落要素、すなわち米長期金利の急上昇の可能性はなくなり、むしろ長期金利の低下で米国株市場にとって居心地のよい環境が続くのではないだろうか。
(出所:Bloomberg)
■米ドル/円は底打ち、クロス円はもう1回安値トライの可能性
何しろ、トランプ政権のゴタゴタがあったにもかかわらず、米経済成長自体は安定的な軌道に乗り、トランプ氏自身の支持率も高いから、第1四半期の混乱を乗り切り、米国株はこれから反騰しやすいかとみる。
ゆえに、リスクオフの円高がすでに一服した可能性も大きい。ユーロ/円などクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)と米ドル/円を分けて考える必要があるが、米ドル/円はすでに底打ちしたか、近々底打ちするだろう。
(出所:IG証券)
クロス円の多くはもう1回安値トライの可能性があるものの、5月安値より大幅な押し余地があるとは限らないから、あまり円の高値をガンガン追わない方がよいかもしれない。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)
このあたりの検証や分析はまた次回。市況はいかに。
(14:00執筆)
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