■米ドル安の進行がいったん止まったかのように見えている
株高のトレンドが続いている中、少し変化の兆しが出てきた。それは他ならぬ、米ドル安の進行がいったん止まったかのように見えていることだ。
周知のとおり、昨年(2020年)3月から一貫して「株高・円安」といった「セット」になった市況が続いてきた。
このようなトレンドの、鮮明化やモメンタムの加速は、2020年11月から今年(2021年)年始まで続き、トレンド自体のサプライズはなかったものの、そのスピードに驚かされた市場参加者が多いでのはないかと思う。
今週(1月11日~)に入ってから、ナスダックは、また史上最高値を更新。日経平均は2万9000円に迫るなか、ドルインデックスは、1月7日(木)の安値を切らず、むしろ90の節目を維持しているように見える。
(出所:TradingView)
そして、米ドル/円は、104円前半をいったん打診し、主要外貨のうち、円の「弱さ」が一段と露呈した。
(出所:TradingView)
円高傾向の主張が多いなか、筆者は一貫して米ドル/円のみではなく、円全体のパフォーマンスを見ないければならないことを指摘してきた。
米ドル/円の反落があっても、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における円安トレンドの進行が示唆しているように、あくまで米ドル安であり、円高傾向があっても受動的である。
主要外貨のうち、円が一番弱かったから、円全体のパフォーマンスを見る限り、円高云々は的外れだと思う。
したがって、米ドル/円は、米ドル全体のパフォーマンス次第であり、昨年(2020年)3月のコロナショック時において「リスクオフの円高」がなければ、株高進行における「リスクオンの円高」といったロジックも基本的に間違いである。
主体性を発揮する円高がなければ、大幅な円高進行予想自体も、杞憂に終わる可能性が高いだろう。
■米ドル全体の下げ一服は、米長期金利の上昇とリンク
すでに多くの指摘があったように。米ドル全体の下げ一服は、米長期金利の上昇とリンクしている。
米10年物国債利回りは、現在1.11%台前後で推移しており、2020年3月安値の0.318%から計算すれば、3.5倍に近い水準まで上昇している。「コップの中の嵐」とはいえ、無視できない値動きだ。
(出所:TradingView)
金利上昇のなか、金利差云々の米ドル先安観測の台頭で、米ドル売りを仕掛けにくくなり、また、過大に積み上がってきた米ドル売りポジションの解消が進む可能性が高まる。
米ドル全体の買い戻しが進めば、主要外貨のうち、やはり一番弱い円が売られやすいだろう。
既述のように、円はすでに主体性を失っており、米ドル次第なので、米ドル全体のパフォーマンスに左右されるしくみは変わらないと見る。
米長期金利の上昇で株式市場が不安定となり、円高の圧力と化す予想も多いが、「有事の円高」より「有事の米ドル高」の方が確率は高い。
円は米ドル次第なので、株の波乱がもたらす影響があれば、まず米ドルが買われ、円は二の次であろう。一時の上昇余地があっても、やはり円の大幅な上昇余地を考えにくい。
■株が下落トレンドへ転換しない限り、大幅な円高はない
もっとも、円高予測を理論的に展開している方の多くは、株の見通しについて、弱気ではなく強気の方が多いようだ。
従来の「株高・米ドル安」の延長線で円高傾向を予測するなら、今のように、主要クロス円における外貨高・円安のトレンドが一層鮮明化され、米ドル/円の弱含みがあっても、下値は限定されるはずだ。
なにしろ、米ドル/円の大幅な下値割れは、主要クロス円の強気基調が崩れない限り、容易ではないことが明らかである。
換言すれば、株式市場がベア(下落)トレンドへ転換しない限り、円の大幅な上昇余地はないだろう。
実際、仮に株の本格的な転換局面があれば、前述のように「有事の米ドル買い」の方が発生しやすいので、円高になるとも限らない。いずれにせよ、過度な円高懸念は不要だと思う。
■足元は「円安の可能性が高い」と見る理由は?
足元の状況で言えば、やはり主要クロス円の一段高、すなわち円安の可能性が高いのではないかと見る。
なにしろ、足元の状況は、クロス円における基調が維持されやすいからだ。それもほかならぬ、米ドル全体のパフォーマンスが「安定」していることが、背景にある。
米ドル安のトレンドが鮮明になれば、外貨高につられ、主要クロス円に外貨高が進みやすいから、円が受動的に売られやすい。
しかし、米ドル安のスピードが速すぎると、逆にリンクした米ドル/円の下値割れも発生しやすいから、結果的にクロス円における円安進行を抑える恐れがある。
となると、目下の状況は、一番「居心地」がいい。
米ドル全面安のトレンドが鮮明に維持されている一方、下落スピードが抑制され、米ドル/円はドルインデックス以上に買われている。円以外の主要外貨が高値圏の変動を維持することでクロス円の上昇をリードし、一段と上値をトライしやすい環境にあるかと推測される。
直近のパフォーマンスで言えば、豪ドル/円と英ポンド/円から、このような特徴を、より鮮明に読み取れるのではないかと思う。
(出所:TradingView)
逆に言えば、米ドル全体の切り返しが急速に展開されればされるほど、主要クロス円における円高圧力が高まる。
受動的とはいえ、ユーロなど外貨の下落が早ければ、円は一時買われることになる。しかし、少なくとも目下において、米ドルの大幅切り返しを促進する要素は見当たらないから、大幅な円高余地は、やはり推測されにくい。
米ドル/円の「底割れ」回避が鮮明になっている現在、主要クロス円における押し目があれば、やはり拾う好機と見るべきであろう。
市況はいかに。
12:00執筆
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