■米中貿易協議に振り回される展開
市場参加者が注目しているのは、ブレグジット(英国のEU離脱)問題と米中の貿易協議ですが、先週(11月4日~)は、米中の貿易協議に焦点が当たり、ヘッドラインで振らされる展開が多く見られました。
11月5日(火)に英フィナンシャル・タイムズ紙が、「米国は中国との一部関税の撤廃を議論している」と報道しました。
米ドル/円は、この報道を受けて109.24円まで上昇しました。
しかし、11月6日(水)には、「第1段階の合意が12月になる可能性がある」と伝わりました。第1段階に関して、11月中の早期合意期待があったため、米ドル/円は、これまでの上昇の一部がはげ落ち、108.65円まで下落しました。
11月7日(木)には、中国商務省が「第1段階の合意に至れば、関税を両国が同程度、撤廃する」と伝わり、再度、リスク選好に推移します。さらに、米国側からも「米中の第1段階の合意には関税の撤廃が含まれる」と報じられ、米ドル/円は109.49円まで上昇。
ただ、バリアオプションによる109.50円の防戦があることや、11月8日(金)にトランプ大統領が、「中国と関税撤廃で合意していない」と、これまでの楽観的過ぎる内容の鎮静化をはかったこともあり、米ドル/円は108.89円まで調整しました。
【参考記事】
●米ドル/円は109.50円と110円に2段構えのバリア!? 抜けないなら手前で戻り売りか(11月11日、西原宏一&大橋ひろこ)
(出所:TradingView)
■悲観はいったん底を打ったか
関税の撤回はないと思いますが、合意に向けてはかなり、良い雰囲気になっているような状況だと思われます。
少なくとも、12月15日(日)に発動予定の追加関税は、延期されるのではないかと考えています。
今月(11月)、開催される可能性があった米中首脳会談も、12月3日(火)~4日(水)にロンドンで開催されるNATO(北大西洋条約機構)首脳会議の場で行われる可能性が出てきています。
今後のカギを握ることになりそうな米中首脳会談は、12月3日(火)~4日(水)のNATO首脳会議の場で開催される可能性が出てきた。写真は2019年6月に開催された大阪G20の時のもの (C)Visual China Group/Getty Images
ここで関税が延期されれば、これまでの関税合戦も、これ以上はひどくならず、米中の通商協議による悲観的な内容も、いったんは底を打ったと考えるべきだと思います。
これまで、米中の対立の不透明さでリスクを取らなかった市場参加者も多くいましたが、これ以上の悪化がないのであれば、ここからはリスクを取っていけるのではないかと思います。
さらに、FRB(米連邦準備制度理事会)をはじめ、主要中銀が緩和策をとっていることから、リスク選好になりやすい状況です。
■リスク回避には当面、なりにくい状況
今、考えられるリスク回避になり得る材料としては、米中の対立、ブレグジット問題、リセッション(景気後退)懸念などがあります。
米中の対立は、まだ、ちゃぶ台返しの可能性はありますが、合意に向かって進んでいることは確かです。
ブレグジット問題は、合意なき離脱の可能性は低下しており、こちらもリスク回避には当面、なりにくい状況です。
12月12日(木)の英総選挙の行方が注目される中、英ブレグジット党のナイジェル・ファラージュ党首(写真)は11月11日(月)、2017年の総選挙時に保守党が勝利した317の選挙区には候補者を擁立しない方針を明らかにした。EU離脱を成し遂げるためには、保守党から離脱派の票を奪うことは得策ではないと判断。これによって、合意なき離脱の可能性がさらに低下したとの見方が強まっている (C)Leon Neal/Getty Images
■米国株は下がれば買われやすい
ISMなど、経済指標の一部は悪く、リセッションの懸念はあるものの、経済指標が悪い原因は、米中の対立とFRBの金融政策だと思われます。
【FX初心者のための基礎知識入門】
●ISM製造業景気指数とは? 米国の景気を占う先行指標!? 非製造業部門にも注目!
FRBは利下げを繰り返し、米中の対立も緩和されているのであれば、経済指標も回復してくるのではないかと考えています。
追加関税の撤回はされないと思いますので、関税が残ったままになり、その点からは景気が良くなるとは考えにくいですが、これ以上は関税がかからないと考えると、経済指標の悪化も底打ちしたのではないかと思います。
そう考えると、リスク選好になりやすく、米国株は最高値も更新していることから、下がれば買われやすい状況が続くのではないかと考えています。
(出所:Bloomberg)
■為替市場は米長期金利上昇による米ドル高
リスク選好で、米長期金利も1.5%付近を底に、反発してきています。
(出所:Bloomberg)
為替市場に関しては、リスク選好であれば、通常は米ドル安・円安になり、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)が上昇するというのが、これまでの動きでした。しかし、今はクロス円は上昇しておらず、米長期金利の上昇から米ドル高に反応しています。
【参考記事】
●NYダウ史上最高値更新も為替は膠着…。株高・円安の動きが鈍くなった理由とは?(11月7日、今井雅人)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 4時間足)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 4時間足)
■米ドル/円は押し目買いを基本戦略に
米長期金利は、まだ上昇余地があると考えており、株式市場も堅調なため、米ドル/円の押し目買いが良さそうです。
他の金融市場では、リスク選好の動きが出ていますが、為替市場でのリスク選好の動きは、はっきりと出ていないこともあり、米ドル/円が110円をしっかりと超えるほど強いイメージは、今は持てません。しかし、109円を中心とした動きから、基本は押し目買いでのトレードを考えています。
(出所:TradingView)
12月の米中首脳会議に向けて、けん制が入る発言も出てくるとは思いますが、追加関税第4弾は延期されると思いますので、その期待から、米ドル/円は押し目買いが良いのではないかと考えています。
【参考記事】
●米ドル/円の下げは限定的か。リスクオン継続の中、豪ドル/米ドルの200日線に注目!(11月5日、バカラ村)
●8月の安値トライは究極のダマシ! 米ドル/円は2018年高値114.55円突破へ!(11月8日、陳満咲杜)
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