■エルドアン大統領がアーバル総裁を突然更迭
3月22日(月)、トルコリラが対米ドル・対円で15%超も暴落するという事件が起きました。
米ドル/トルコリラは、一時8.50リラ台まで急上昇し、トルコリラ/円も瞬間的に13円割れまで売られる場面がありました。
(出所:IG証券)
(出所:IG証券)
その原因を理解するには、先週(3月15日~)の出来事を振り返る必要があります。
トルコ中銀は3月18日(木)に政策会合を行い、政策金利を2%引き上げました。市場のコンセンサスは据え置きでしたので、利上げは相当なサプライズでした。
(トルコ中銀のデータを基にザイFX!編集部が作成)
トルコリラも利上げに対してポジティブに反応し、トルコリラ/円は15円を回復しました。しかし、このサプライズ利上げは2日後に、エルドアン大統領がアーバル中銀総裁を更迭するという衝撃な出来事に発展しました。
アーバル前総裁は昨年(2020年)11月に就任したばかりで、インフレと戦うために積極的な利上げを行いました。
【参考記事】
●利上げならトルコリラ/円は13.50円超え! エルドアン大統領も限定的な利上げに賛成か(2020年11月11日、エミン・ユルマズ)
トルコリラはこの引き締め政策にポジティブに反応し、11月以降は堅調な動きで20%超上昇しました。
(出所:IG証券)
■なぜ、アーバル総裁は更迭されたのか?
一方で、アーバル氏の利上げ作戦は不動産・住宅セクターの関係者に不人気でした。
前回のコラムで「トルコの住宅価格は月に前年比で30.4%上昇しました。特にイスタンブール、アンカラ、イズミルというトルコ3大都市における住宅価格の上昇が目立っています。エルドアン大統領の支持基盤は住宅・不動産セクターが大部分を占めているので、住宅価格が勢いよく上げ始めているこのタイミングでの利上げは考えにくいです」と書きました。
【参考記事】
●トルコリラは対米ドル・対円で安定推移。トルコ中銀会合とFOMC控え、動きにくい(3月17日、エミン・ユルマズ)
私に限らず、トルコの内情を知っている者なら誰もが同じ結論を出していたと思います。そのため、個人的にも利上げは相当なサプライズでした。
しかし、その後の出来事からもわかるように、この利上げはエルドアン大統領の承認を得ていなかったようです。もうひとつ考えられるシナリオは、アーバル氏が事前にエルドアン大統領の承認を得たが、利上げ後にエルドアン支持者たちから猛烈な批判があがったのでエルドアン大統領が意見を変え、アーバル氏の更迭に踏み切ったということです。
今回のアーバル総裁の更迭は、利上げの承認をエルドアン大統領に得ていなかったためなのか、それとも承認を得たが利上げ後にエルドアン支持者から猛烈な批判があがったため、エルドアン大統領が意見を変えたことによるものなのだろうか (C)Anadolu Agency/Getty Images
いずれにしても、トルコ中銀に独立性がないことを全世界に宣言したことになり、極めて残念な出来事です。
■新総裁は利上げに猛反対! リラは乱高下がしばらく続くか
では、今後はどうなるのでしょうか?
エルドアン大統領はトルコ中銀総裁にシャハプ・カブジュオール氏を任命しました。
トルコ中銀公式ウェブサイトのトップページには、新総裁に就任したシャハプ・カブジュオール氏の声明とともに写真が掲載されている。
新総裁はエコノミストでエルドアン寄りの新聞で2018年から経済コラムも書いています。つまり、トルコではわりと意見が知られている方です。
彼の過去のコラムを見たら、政策金利の引き上げに猛烈に反対していることがわかります。つまり、トルコ中銀は今後、利下げに動く可能性が高まったということです。少なくとも今後の利上げは期待できません。
市場が週明け(3月22日)にパニック状態に陥ったのはそのためだと考えます。3月22日はトルコリラに限らず、イスタンブール株式市場も大暴落しました。
トルコリラ/円はパニックが落ち着いてから14円水準まで戻しましたが、個人的にはトルコリラの乱高下はしばらく続く可能性が高いと考えます。
(出所:IG証券)
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)