■米国株は急落した一方、米ドル/円は急落後に急騰した
新型コロナウイルスの感染拡大により、世界経済は大変な状況となっています。
感染の中心は欧州、そして米国へと移り、都市が封鎖され、人々の活動が極端に制限されるようになりました。かつて経験したことのない世界です。
経済が強制的にストップさせられたので、当然、今後の経済指標は極端に悪い数字になるでしょう。
ブラード米セントルイス連銀総裁は米国の4-6月期失業率が30%、GDPがマイナス50%といった、にわかには信じ難い予測まで示しています。
【参考記事】
●シカゴ日経先物がフラッシュ・クラッシュ! 月曜の円高は2週続けてフェイク。今週は?(3月23日、西原宏一&大橋ひろこ)
当然、米国株は急落し、同時に米ドルも急落しました。
3月9日(月)にNYダウは2万3706ドルを示現し、米ドル/円は101.18円の安値をつけました。
NYダウはその後も下落し、1万8000ドル近くまで急落したのですが、米ドル/円は驚くことに、そこから11円以上急騰しました。
【参考記事】
●FRBが流動性供給策導入も、米ドルの需給逼迫は継続! 株安でも米ドル/円は上昇か(3月19日、西原宏一)
●これは、リーマンショック以上の危機!! 世界的な米ドル不足で米ドル全面高に(3月19日、今井雅人)
●ドル高は事実上のQE4実施でも止まらない? コロナ収束後の市場のV字反騰に備えよ!(3月23日、陳満咲杜)
●FRBが無制限の量的緩和をしてもまだドル高。ドル安に反転してくるのはいつか?(3月24日、バカラ村)
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
■米国株急落と米ドル上昇が同時に起きた4つの理由
この極端な変化についていけた人は、そう多くないのではないでしょうか。私自身、米ドル/円がこれほど急騰するとは思いもしませんでした。
この米国株急落と、米ドル上昇は、どうして同時に起こったのでしょうか。
私が知りうる限り、市場で何が起こっていたのかを書いてみます。
(1)マージンコール
金融市場の大きな動きは、結局のところ、損切りが理由であることが多くみられます。株価の急落で多くのヘッジファンドが証拠金不足に陥り、ポジションの強制解消を迫られました。金(ゴールド)が急落したのも、最も安全な資産である米国債まで売られたのも、この「マージンコール」が理由です。
為替市場では、安全資産とみなされる円が買われると見込んだ米ドル/円のショートポジションがヘッジファンド勢の間で積み上がっていました。そのポジションも強制的に解消され、米ドル/円は急騰することになりました。
(2)米ドル不足
米ドルは貿易やその他、あらゆる決済に使われる特別な通貨です。北朝鮮とイランが取引したとしても、おそらく中国人民元ではなく、米ドルで取引するでしょう(事実かどうかは確認できませんが)。
産油国では原油価格が急落し、手元に入ってくる米ドルが足りなくなって、他から調達する必要がでてきました。また、世界的にサプライチェーンが止まり、予定より輸出・販売量が少なくなった企業も多いと聞きます。そうした企業も、支払いのための米ドルが足りなくなるので調達を急ぎ、米ドルに対する急激な需要が生じ、米金利が上昇しました。
(3)為替介入
多くの新興国や産油国通貨が売り込まれましたが、そうした場合、為替市場を安定化させるために中央銀行が市場介入する場合があります。その場合、米ドルを売り、自国通貨を買うオペレーションを行います。しかし、その結果、外貨準備に占める米ドルが少なくなります。そのため、新興国の中央銀行はユーロや円といった他の準備通貨を売って、米ドルを買うというオペレーションを事後的に行います。これが、主要通貨市場での米ドル上昇となります。
(4)ポートフォリオヘッジ
これが最も大きな理由と思われます。海外投資家が米国株に投資するとき、為替ヘッジを行わない場合もあれば、為替ヘッジを行うときもあります。どの程度の比率で為替ヘッジを伴っているのか、正確な数字はありませんが、米国株は世界で最も巨大な資産市場(暴落前は優に5000兆円を超えていたでしょう)なので、わずかの変化でも大きな金額となり、為替市場を十分に揺るがします。
仮に日本から米国株に50兆円投資していたとします(実際にはもっと大きな金額でしょう)。そのうち、半分が為替ヘッジつきだと仮定すると、解約に備えた期日が先の米ドル売り・円買いポジションが25兆円相当あることになります。
今、コロナ危機により、米国株は30%下落しました。そうなると、為替ヘッジしなければいけない金額は25兆円ではなく、30%分の7兆5000億円少ない17兆5000億円となります。7兆5000億円相当の米ドル売り・円買いポジションが「不必要」になります。そうなると、そのポジションを為替市場で買い戻さないといけなくなります。これが、世界中の通貨で行われていることになります。米国株市場がとにかく巨大なので、非常に大きなインパクトを与えます。
■リーマンショック時も米国株と米ドルは逆相関だった
リーマンショックの時を振り返りますと、我々はどうしても強烈な円高の記憶があるので、米ドルはその時、下落したと思ってしまいます。
しかし、実際には何が起こったかというと、ユーロ/米ドルや豪ドル/米ドルといった通貨ペアは米国株の下落と同時に売られました。つまり、ユーロ/米ドルなどでは「米ドル高」になっていたわけです。
チャートを見ると、2008年9月のリーマン・ブラザーズ破綻から米国株は下げのスピードを速めましたが、同時にドルインデックスは上昇しています。
2009年3月6日(金)にNYダウは6469ドルの安値をつけ、その後、回復軌道に乗りますが、ドルインデックスと見事な逆相関となっています。
(出所:Bloomberg)
特に豪ドル/米ドルは2009年3月頃、0.6300ドル前後で取引されていましたが、NYダウが2009年末に1万ドルを回復してくると、豪ドル/米ドルは0.90ドルを超える高値で取引されるようになりました。
(出所:Bloomberg)
もちろん、その頃は資源価格も高く、現在の状況とは違いますが、(4)で示したポートフォリオヘッジの影響も大きいとするならば、豪ドル/米ドルの反発余地もそれなりに大きいと考えたほうが良いのかもしれません。
■米国株の戻しと同時に豪ドルもある程度戻す可能性
先週のコラムでは、資源価格が今後も低迷することから、豪ドルは低迷すると書きました。
【参考記事】
●利下げにもかかわらずレパトリで米ドル高。弱い商品市況。豪ドルは弱い通貨に逆戻りか(3月18日、志摩力男)
実際、その後の豪ドルは対米ドルで0.5500ドル前後まで急落しました。しかし、あまりにも下落が急激なことと、ポートフォリオヘッジからくる豪ドル売りも大きかったと仮定すると、米国株の戻しと同時に豪ドルもある程度戻す可能性が出てきています。
(出所:Bloomberg)
新型コロナの影響がどこまで波及するのか、予断は許しませんが、いつかコロナの影響は終わります。
新薬開発なのか、感染者のコントロールの結果が勝利するのかわかりませんが、少なくとも2年以上継続する問題ではないと信じたいと思います。
コロナの影響がなくなれば、マーケットは自然と回復するでしょうから、現在のレベルは、長期的にはバーゲンではないかと思います。
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