ロスカットとは
「ロスカット」は、保有しているポジションの含み損(未確定の損失)がある一定の水準に達すると、FX会社が強制的にポジションを決済するしくみのことを言います。
ロスカットはその名のごとく、「ロス(損)」を「カット(切る・止める)」するものでから、一般的には含み損のポジションを決済して損失を確定する取引全般を指しますが、ここでは法令で定められた制度のことを解説します。
なぜ、FXにはポジションを強制的に決済させられるしくみが存在するのか?
FXには株や先物の取引のように、1日で動く値段の上限や下限が決まっていたり(値幅制限)、一定以上の値動きが生じた際に取引を一時的に停止する措置(サーキットブレーカー制度)などはありません。そのため、為替レートが1日で10円とか20円とか動いてしまうことも、絶対にないとは言い切れません。
また、証拠金を使うことでレバレッジをかけて取引することができるしくみのため、為替レートが思った方向と反対に動きすぎてしまうと、預けた資産以上の損失が発生する可能性もあります。
こうしたFXの特性によるリスクを限定的にするため、2009年に改正された「金融商品取引業等に関する内閣府令(金商業等府令)」によって、投資家の資産を守る観点からFX会社へ義務づけられた制度がロスカットです。FX会社にはルールの作成や執行管理体制を整備して、投資家との間で交わされた取り決めにもとづいて、ロスカットを執行することを遵守するよう求められています。
ですから、法律にもとづいた登録を行って営業している日本国内のFX会社で取引すれば、原則的には口座に預けてある資産以上の損失が出ないようになっているのです(「原則的には」と書いた理由はあとで説明します)。
カギは証拠金維持率
ロスカットは、FX会社が独自に設定するロスカットレベルに達するか下回ると、自動的に発動します。ロスカットレベルに適用されるのは主に「証拠金維持率」です。「有効比率」や「証拠金使用率」と呼んでいるFX会社もあります。
証拠金維持率は、必要証拠金に対する預かり証拠金の割合のことで、以下のような計算で求められます。
証拠金維持率(%)=預かり証拠金÷必要証拠金×100
たとえば、口座に預かり証拠金5万円を入金して、そのうちの4万円を必要証拠金として使用してポジションを保有すると、証拠金維持率は125%になります。
この証拠金維持率が、為替レートの変動によってFX会社が設定したロスカットレベルと呼ばれる水準に到達、もしくは下回ると、ロスカットが発動します。
一般的には、ロスカットの発動条件を満たすと、保有しているポジションすべてが決済されますが、中には一定の基準にもとづいて、証拠金維持率がロスカットレベルを上回る水準になるまで、ポジションの一部を部分的に決済するFX口座もあります。
ロスカット制度の導入自体は法律で義務化されていますが、ロスカットレベルの決定は各FX会社に委ねられています。主要なFX会社ではだいたい、50%~100%あたりが主流です。ロスカットレベルの水準を一律で設定しているFX会社の方が多いですが、複数のロスカットレベルを設定して、トレーダー自身がその中から選択できるFX口座もあります。
ロスカット発動の具体例
レバレッジ25倍、ロスカットレベルが100%のFX口座で、預かり証拠金5万円、為替レートが100円のときに1万通貨の買いポジションを建てたとします。
必要証拠金は4万円なので、ポジションに1万円の含み損が生じて、預り証拠金も4万円になった時点で、証拠金維持率は100%に達します。
1万通貨取引で1万円の含み損が発生するのは、価格がポジションを建てた水準から1円下落した時点になるので、この場合は99円になるとロスカットが発動してポジションが強制決済されます。
以下はロスカットレベルを10段階に分け、ロスカットが発動する水準やポジションが強制決済されたあとの預かり証拠金額などを一覧にしたものです。
※1…この水準を割り込んだ段階でロスカットが発動するため、実際にはこの水準で強制決済が行われるわけではない。リアルタイムで必要証拠金額を算出するFX会社の場合、必要証拠金額が変動するため水準は異なる
※2…参考値。ポジションの決済レートによって異なる
※3…参考値。ポジションの決済レートによって異なる。スワップポイントによる損益や、スプレッドなどの取引コストは考慮せず
上表は、必要証拠金額が4万円で変わらないことを前提に、機械的に計算してあります。
そのときの為替レートをもとに必要証拠金額をリアルタイムで算出するFX会社なら、為替レートが99円のときの1万通貨の必要証拠金額は、3万9600円に下がります。その場合、証拠金維持率が100%になるのは、預り証拠金も3万9600円になったときなので、98.96円ぐらいでロスカットが発動することになります。
ちなみに、為替レートが100円なら、4万円の必要証拠金で1万通貨の取引ができますが、口座に4万円だけ入金して、そのすべてを必要証拠金として取引に使った場合、ポジションを建てた瞬間に証拠金維持率は100%になります。ロスカットレベルが100%のFX会社で取引したら、ほぼ間違いなく、即座にロスカットが発動します。
口座には取引で使う以上の資金を入れておく必要があるということです。
ロスカットをできるだけ回避するには?
ロスカットレベルが同じでも、預かり証拠金に余裕があればあるほど、ロスカットが発動する水準は建てた値段から遠くなります。
でも、これはポジションの含み損が膨らんでいるのに何も手を打たなかった場合、どこまで耐えられるのかという話にすぎません。最終的にロスカットでポジションが強制決済されれば、口座に残る金額は同じです。
※1…この水準を割り込んだ段階でロスカットが発動するため、実際にはこの水準で強制決済が行われるわけではない。リアルタイムで必要証拠金額を算出するFX会社の場合、必要証拠金額が変動するため水準は異なる
※2…参考値。ポジションの決済レートによって異なる
※3…参考値。ポジションの決済レートによって異なる。スワップポイントによる損益や、スプレッドなどの取引コストは考慮せず
ロスカットが発動する前の段階で、損失を限定的にとどめる決済の注文を出しておくなど、自分でしっかりとリスクをコントロールすることが何よりも大切です。
預かり証拠金額、必要証拠金額、証拠金維持率などの資産に関する情報は、どのFX会社でも取引画面上で確認できます。預かり証拠金の額やポジション量などをもとに、ロスカットが発動する水準を計算してくれるシミュレーション機能を提供しているFX会社もあります。そのような機能を提供しているFX会社で取引している方は、ぜひ活用してみてください。
絶対に安全というわけではない
ロスカットは、FX会社がロスカットの発動条件を満たしたと判定したときに、その時点のマーケットの実勢レート(実際に取引できるレート)でポジションを決済するため、為替レートが急激に変動しているときは、想定されるレートから離れたレートでポジションが決済される可能性もあります。
また、投資家のポジション状況はFX会社によって一定の間隔でチェックされていますが、チェックの間隔はFX会社によって異なります。ロスカットの発動条件を満たしても、タイミングによっては瞬時にポジションが決済されないことも考えられます。
さらに、週末に相場を動かすニュースが出て、月曜日の為替レートが前週金曜日の終値から大きくかけ離れてはじまり、取引開始直後に本来のロスカットレベルと異なる水準でポジションが決済される可能性もあります。そうなると、最悪の場合は資産がマイナスになってしまったり、マイナスは回避できたとしても、資産のほとんどを失ってしまうことも、ないとは言い切れません。
ロスカット制度が資産を100%守ってくれる制度というわけではないということは、常に意識しておく必要があります。
マージンコールと追加証拠金制度
ロスカット制度は投資家にとっての「最後の砦」ですが、資産が絶対にマイナスにならないことを保証してくれる制度ではありません。繰り返しになりますが、相場が思った方向と反対に動いたときに、含み損を抱えたままロスカットレベルまでポジションを放置するのではなく、あらかじめ逆指値注文などを出して、損失を拡大させないようにすることが絶対条件です。
FX会社によっては、ロスカットより前の段階で、ロスカットが近づいたことをメールで知らせてくれる「マージンコール」のしくみを導入しているところもあります。「アラーム通知」と呼ぶところもあります。取引しているFX会社がこうしたサービスを提供していたら、ぜひ活用するようにしてください。
【ロスカットなどに関する参考コンテンツ】
●FX会社おすすめ比較:ロスカット・メール機能で比べる
また、一定の時点でポジションの含み損が規定の水準を超えたら、指定された時間までに追加の入金やポジションの一部決済をしなければいけない「追加証拠金(追証)ルール」を導入しているFX会社も一部あります。
追証ルールを導入しているFX会社では、指定された時間までに追加の資金を入金して預かり証拠金を増やすか、ポジションの一部を決済して証拠金維持率を高める措置を行わなければ、ポジションが強制決済されます。
ただし、入金やポジションの一部決済を行うつもりでも、その前に証拠金維持率がロスカットレベルに達してしまえば、その時点でポジションが強制決済される点には注意が必要です。
(最終更新日:2021年4月8日)
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