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・ 米雇用統計が注目される理由
・ 失業率
-米国には6つの失業率がある
-失業率ゼロ%はありえない
・ 非農業部門雇用者数
-予想がまったくあてにならない!?
・ 平均時給
-FRBも注目するワケ
米雇用統計とは
「米雇用統計」とは、米労働省労働統計局(BLS)が毎月発表する、労働市場の状態を示す10項目のデータの総称です。
世界各国で発表される、ありとあらゆる経済指標の中でも、市場関係者やFXトレーダーから特に高い注目を集める経済指標として知られていて、FX業界では米雇用統計は月に一度のお祭的なビッグイベントとも位置づけられています。まだFXをはじめていなくても、FXに興味を持っていて聞いたことがある方も多いであろう、経済指標の代表格とも言えるような存在です。
発表時間は、NY(米東部)時間の午前8時30分。日本時間だと米国が標準時間中は午後10時30分、米国がサマータイム(夏時間)中は午後9時30分になります。

米雇用統計が毎月第1金曜日に発表されることは、ご存知の方も多いと思いますが、厳密には必ず毎月第1金曜日というわけではありません。
米雇用統計は毎月、暦上で12日を含む週がその月の調査期間となり、調査週の3週間後の金曜日に集計結果が発表されます。ほとんどの場合、毎月第1金曜日が該当しますが、カレンダーの並びによっては翌月の第2金曜日になることもあります。米雇用統計の発表日がいつになるのかは、FX会社の経済指標カレンダーなどで事前に確認するようにしましょう。
米雇用統計が注目される理由
そもそも、米雇用統計はなぜこれほど、世界中から注目される経済指標なのでしょうか?
それは、米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)が金融政策の運営方針を決定するときに、労働市場の状況を考慮しなければいけないからです。
つまり、労働市場の状態が良ければ利上げ、悪ければ利下げを行う可能性があるということです。また、雇用の状態は、経済成長に欠かすことができない個人消費にも大きな影響を及ぼします。米雇用統計は米国の金融政策だけでなく、景気の動向を占ううえでも、非常に重要と考えられているのです。
その米雇用統計のデータの中で、市場参加者が特に重視するのが、「失業率」、「非農業部門雇用者数」、そして近年、注目度が高まっている「平均時給」の3項目です。
失業率
失業率は、労働力人口(働くことが可能な人)の中に、失業者(仕事を探しているのに職に就けない人)がどのぐらいいるのかを表したもので、以下の方法で求められます。
以下は、2000年以降の失業率の推移を表したグラフです。

※米労働省労働統計局のデータをもとに作成
※発表元により、過去のデータは修正されることがあります(最終情報取得日:2021年3月17日)
米国の失業者とは、調査時に
・仕事があればすぐに就職できる
・過去4週間、仕事を探しているけれど見つからない
の両方に当てはまる人を指します。景気が悪いなどの理由で、一時的に企業に解雇(レイオフ)されている人も該当します。
労働力人口は、失業者と就業者(仕事に就いている人)の合計、つまり、働くことが可能な人の総計です。
失業率は、米商務省の一機関である国勢調査局(センサス局)の調査員が、全米約6万世帯から直接ヒアリングして得た回答をもとに作成されます。こうしたやり方は、家計調査と呼ばれます。調査は、16歳以上の男女が対象になりますが、軍に従事している人、刑務所などの施設に入っている人、そもそも働く意欲のない人は含まれません。
経済の教科書的な考え方では、景気が悪いときは企業が人材の採用を見送ったり、人員を整理することが増えるので、失業者が増加して失業率は上昇します。反対に景気が良いときは、企業はモノやサービスの提供を増やすために人員を補充するので、仕事に就ける人が多くなって失業率は低下します。失業率は景気と密接な関係にあるのです。
ただし、これまで職探しを諦めていた人が求職活動を再開するなど、経済にとってポジティブな要因で失業者の定義に当てはまる人が増えると、失業率は一時的に上昇することもあります。そのため、単月の結果にとらわれすぎず、中長期的な推移を確認することが大切です。
基本的に失業率の推移は、景気の推移に遅れる傾向があります。「景気悪化→失業者増加→失業率上昇」、もしくは「景気好転→失業者減少→失業率低下」という循環が一般的だからです。
米国には6つの失業率がある
米国の失業率は、U1失業率からU6失業率までの、6つの系列に分類されます。その中で、先ほどご紹介した定義で算出されるU3失業率が、米国の公式な失業率になります。市場参加者がもっとも注目するデータで、FX会社の速報系ニュースなどで伝わるのもU3失業率です。
U1:15週間以上失業している人の割合
U2:解雇や一時的に契約が完了(レイオフ)している人の割合
U3:失業者の割合(←公式の失業率)
U4:U3に職探しを諦めた人を加算した割合
U5:U4に家事や育児の都合で働けない人を加算した割合
U6:U5にやむを得ずパートタイムで労働している人を加算した割合
もっとも注目度が高いのはU3失業率ですが、広義の失業率とされるU6失業率も、米国の雇用状況をより広く捉えることができるデータとして、金融当局や一部の市場参加者に注目されています。
失業率ゼロ%はありえない
ちなみに失業率がゼロ%、つまり、働く意思のある人が全員、職に就いている状態になることは、基本的にはありえません。どれだけ景気が良くて人手不足が発生していても、より良い条件を求めて自発的に仕事を探している人、育児や家事などのやむを得ない事情で仕事に就くことができない人、求職者のスキルと企業側の求める条件にミスマッチが生じるなどといった理由で、職に就いていない「摩擦的失業状態」の人が、常に一定数は存在するからです。
そのため、マクロ経済学には「完全雇用」という概念が存在します。これは、摩擦的失業状態の人を除き、働く意思と能力のある人すべてが仕事に就いていて、非自発的な失業者が存在しない状態のことで、完全雇用の状態が、労働市場がもっとも健全な状況であると考えられています。
FOMCの参加メンバーは、米国の長期的な失業率の均衡水準を4.0%と予測しています(2021年3月時点の中央値)。2018年半ば以降、常に3%台で推移していた米失業率は、新型コロナウイルスの影響で2020年4月に一気に14%台まで悪化しました。2021年2月の失業率は6.2%まで改善してきているものの、FOMCが完全雇用と予測する水準にはまだ達していません。

※米労働省労働統計局・FRBのデータをもとに作成
※発表元により、過去のデータは修正されることがあります(最終情報取得日:2021年3月17日)
米雇用統計ではそのほかに、性別、年齢、人種、地域、学歴、失業期間、失業理由別など、さまざまな項目で分類した失業の状況を表すデータも発表されます。
非農業部門雇用者数
非農業部門雇用者数は、農業部門を除いた、米国の民間企業や政府機関に属する事業所の給与支払い帳簿をもとにして、就業者数が前月からどれだけ増えたか減ったかを表したデータです。「非農業部門雇用者数変化」や「非農業部門就業者数」と言われることもあります。正式名称の「Nonfarm payroll employment」を略してNFPと呼ばれる、非常に注目されるデータです。
農業部門が対象になっていないのは、農業は天候や収穫時期などによって従事する人の数が大きく変化するので、これを含めてしまうと労働市場全体の実態や傾向が把握しづらくなるという理由があるからです。
NFPのデータの中には、企業の経営者や自営業者は含まれません。被雇用者(雇われている人)のみが、カウントの対象になります。給与の支払い帳簿をもとに集計されるため、2カ所以上の事業所から給料をもらっている被雇用者は、二重、三重にカウントされるという特徴があります。
FX会社の速報系ニュースで伝わる結果は全体の就業者数ですが、民間企業と政府機関に大別したもの、さらに民間企業の就業者数を業種別に分類したものも同時に発表されます。業種別では、特に製造業の就業者数が注目を集めます。
以下は、2000年以降の非農業部門雇用者数の推移を表したグラフです。通常は、多くても月に数十万人程度の増減となるデータですが、2020年3月以降は新型コロナウイルスの影響で、これまでにないような増減が見られています。

※米労働省労働統計局のデータをもとに作成
※発表元により、過去のデータは修正されることがあります(最終情報取得日:2021年3月17日)
NFPは約48万の事業所データをもとにした、事業所調査によって作成されます。約6万戸の家計調査で作成される失業率よりもサンプル数が多く、景気の動きと雇用者数の増減には高い相関性が認められているだけでなく、速報性も高いため、失業率よりもNFPの方が重要性が高いと考えている人が多いと言われます。
もっとも、月ごとの変動が比較的大きく、発表月の翌月と翌々月の2度にわたって数値が修正されるため、中長期的な雇用の動向を見極めるなら、失業率の方が有効だとも言われます。NFPの動向をもう少し長い目で観察するために、NFPの3カ月平均を算出して、それを分析の対象にする手法も知られています。
予想がまったくあてにならない!?
米国の金融政策を左右する可能性がある米雇用統計が、非常に重要な経済指標だというのは理解できます。でも、月に一度のお祭り的なイベントと言われるほど注目されているのには、別のワケもあります。
それは、NFPの結果が市場予想中央値と大きく違っていて、それが原因で為替相場が激しく動いたことが、過去に何度もあったからです。もちろん、大手金融機関や調査会社も、非常に高度な分析手法を用いて結果を予想していますが、悪い言い方をすれば、市場予想中央値があてにならなかったことが頻繁にあったのです。かつては結果と市場予想中央値が大きく違うと、米ドル/円のレートが発表直後に一瞬で1円や2円動くことも、珍しくはありませんでした。
NFPの市場予想中央値を参考にして、発表前に思惑的なポジションを大きく積み上げる市場参加者が増えることも、発表後の値動きの荒さを助長する一因になっていた可能性があります。
ここ数年は、結果が市場予想中央値とかけ離れていても、昔ほど為替相場が大きく動くことは少なくなりましたが、今も多くの市場参加者がトレードチャンスと捉えて、NFPの発表を待ち構えています。非常に注目度の高い指標であることは、間違いありません。
平均時給
米雇用統計の中には、NFPと同じ事業所調査によって集計される、賃金に関するデータがいくつかあります。その中で近年、NFP・失業率と並んで高い注目を集めているのが、一般的に平均時給と呼ばれる、時間あたり平均賃金のデータです。
その名のとおり、1時間あたりの賃金の伸びを表したデータです。所得の増減は消費活動に大きな影響を与えるため、景気の先行きを占ううえでも大事な材料と捉えられています。前月比と前年同月比の両方が発表されますが、前年同月比の方が、中長期的な賃金動向を見極めるうえでは有益だと考えられています。
以下は、2008年以降の平均時給(前年同月比)の推移を表したグラフです。2020年4月に一時、7%台後半へ急上昇しましたが、これは新型コロナウイルスの影響で賃金の低い労働者がより多く解雇されたため、平均水準が底上げされたことが主な要因です。

※米労働省労働統計局のデータをもとに作成
※発表元により、過去のデータは修正されることがあります(最終情報取得日:2021年3月17日)
通常、景気が良いときは消費者の購買意欲が高まるので、結果として企業の売り上げは増えます。売り上げの増えた企業が利益の一部を従業員に還元することで、全体の賃金は傾向として上昇しやすくなります。また、労働市場が完全雇用の状態に近づくと、企業は人員の補充が難しくなります。同業他社よりも条件を良くして人材を確保しようとしたり、よりスキルの高い人材を確保しようと高待遇を提示する力が働くので、就業者の平均賃金は上昇しやすくなります。
平均時給は、賃金インフレの指標としても注目されます。賃金インフレとは、「賃金上昇で所得増加→消費拡大で需要が供給を上回り物価が上昇→物価上昇で賃金が上昇」という循環によって、持続的に物価が上昇することです。経済学では一般的に、賃金インフレはインフレの最終局面で訪れると言われています。
FRBも注目するワケ
平均時給の動向はFRBにとっても大切なデータです。
賃金が上昇していても、それを上回るペースで物価が上昇すれば、実質的な所得は減っていることになります。個人消費が落ち込んで、経済成長に影響を及ぼす可能性があることから、賃金の動向は景気の状態を見極めるうえでも参考になります。
以下は、2008年以降の平均時給(前年同月比)と消費者物価指数(総合指数・前年同月比)の推移を表したグラフです。

※消費者物価指数は総合指数のデータを掲載
※米労働省労働統計局が発表した前年同月比のデータをもとに作成
※発表元により、過去のデータは修正されることがあります(最終情報取得日:2021年3月17日)
平均時給が注目を集めるようになったのは、過去に米国が完全雇用に近いと思われる状態になったときにも、本来上昇していくと考えられる賃金が、あまり伸びなかったという理由があったからです。また、2000年代の金融危機以降、米国の物価がかつてのように上昇していかないことから、物価の先行きを判断するための重要なデータとして扱われるようになったという理由もあります。
(最終更新日:2021年3月30日)
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